ヒミズ



終焉と再生。見終わった後、無性に叫びたくなりました。


万人にオススメできる内容ではありませんが、
個人的には今まで見てきた映画で一番好きです。
(言う程映画は見てきてませんがw)


舞台は震災後の被災地。


染谷将太演じる住田祐一は、別の男を作り息子に一切関心を示さない母親、
金に困り息子に向かって死を強要する父親、
という二人のクズ両親の元に生まれ、
普通の生活を送ることを夢見ている中学生。


二階堂ふみ演じる茶沢景子は、住田に偏執的な恋愛感情を持つクラスメート。
住田の発言を語録として部屋の壁に貼ったり、
学校でも住田を常に観察しては笑顔になり、
自らをストーカー風と自覚している変わった子です。


周りを固めるのは、震災によって全てを失いホームレスとなった被災者達。


とにかく主演二人とも異常性に富んだキャラクター。
や、全般的に特殊な人物ばかりでしたが、特に二人は輪を掛けて異常でした。
それでもどこか憎めない、普通ではない境遇に苦悩して必死にもがいている、
愛すべき二人です。
よくぞまぁ演じ切ったと、心から称賛したいです。


とにかく感情の動きが読めない個性的なメインキャラ二人でしたが、
何故か異常な程に感情移入してしまいました。
終盤は本当に救われて欲しい、絶望の淵に立って尚立ち直って欲しいと、
心から祈りながら見ていました。


中盤から終盤にかけては特に、
住田君に絶望が迫って来る様が如実に伝わってきました。
劇中に出てくる「オマケの人生」という言葉で分かるように、
既に人生を諦めてしまったというか、
自分の人生が終わってしまった事を自覚している様子が、
本当に悲しくて仕方なかったです。


そんな中、特筆すべきは住田君に対する茶沢さんの献身的な行動。
やり方が特殊過ぎて、よくある献身さではないため分かりにくいのですが、
住田君の内面を一番理解出来る茶沢さん特有の献身さだったと思います。
自らも両親から絞首刑台で首つり自殺を迫られる境遇ながら、
よくぞあそこまで住田君に尽くし、救おうとすることが出来たと思います。


茶沢さんにとって、住田君と共にいることが何より幸せなのに、
最後に住田君のために取った行動は涙なしには見られませんでした……。


住田君は普通を夢見ているからこそ、普通ではない。
自分で分かっていながら、普通でないことを否定する。
だからこそ、住田君は普通の人に救われることが許せない気持ちと、
普通の人と一緒に幸せになりたい気持ちが混在していると思う。


茶沢さんが凄いのは、自分が普通ではないという境遇を持ちながら、
その武器を使わなかったことです。
自身の普通ではない境遇(家庭環境)を一切住田君に言わず、
普通の人間として住田君に接し、救いの手を差し伸べました。
あるいは、茶沢さんが自分の家庭環境を暴露していれば、
もっと早く住田君は心を開いたかもしれません。
でもその結果は恐らく、二人が結ばれていたとしても、
傷のなめ合いで終わっていたかもしれません。


普通の幸せが欲しいと願う住田君の想い。
それに応えるべく、本質は異常性を持っているのに、
住田君のために普通であろうと最後まで接した茶沢さん。


これは正直こうあって欲しい、
という妄想に近い個人的な設定というか感情ですが、
そう思いたくなる程、本当に二人の関係は素晴らしいものでした。


主演二人に注目してきましたが、ホームレス達も本当に良かったです。
注目したいのは彼らが「若者の未来のため」に動いてくれることです。
人生の終盤に来てしまった人が一からやり直すことはなかなか難しいものです。
それでも、自分の存在意義として、
若者を救う、未来を託すという目的を見出した事は胸に来ました。


元々漫画原作の昔の作品なので、もちろん原作の舞台は震災後ではありません。
園子温監督が震災後に脚本を大幅に書き直し、
被災地へ足を運んで撮影に踏み切ったそうです。


原作は未読なので比較はできないのですが、
原作の結末等を簡単に調べたところ、
個人的には正解だったように思います。
結末として納得のいくものになったし、
若者へのメッセージ性に富んだ作品から、
若者だけでなく老人から若者まで、日本人全般に響く作品になった気がします。


こういう狂気系というか、
崩壊や終焉を思わせる世界観をモチーフにした作品は、
最終的に何が言いたかったの?という感想を抱く時があるんですが、
ヒミズに関しては結末がとても綺麗に胸に沁み込んできました。
(テーマ性がなくてもいいっちゃいいので、
 そういう作品を否定する訳じゃないですが)


主演の二人の演技が好演や熱演というか最早狂演といった感じで圧巻の演技で、
特殊な世界観に完全に引き込まれました。
ヴェネツィア国際映画祭で、
最優秀新人賞を日本人初の同時受賞したそうですが、納得の受賞ですね。


特に二階堂ふみが、昔の宮崎あおいみたいな雰囲気で実に良いです。
まだ17歳であれだけの演技が出来るとか……。
一つの作品の演技で一気にファンになったのは初めてかも。
いや、ホント好きです。

プレイボーイにインタビューが載っていましたが、
二階堂ふみの演技は、「役に身体を貸している」という感覚らしいです。
何この既にベテランの域に達したコメントは。
役になりきるとか役と一体化する、とかいうレベルではない。
自分の身体に役が憑依するかのよう。
天才というのは軽々しく聞こえてしまいますが、
なんつーか考え方は普通の人と違うと思いました。


最後に、印象的だった台詞について。
「後は自分で頑張れ」という台詞がありました。
手を差し伸べてくれる人たちもいますが、
やはり最後に頑張るのは自分自身です。
助けてもらっても肝心の自分が何もしなければ、幸せな未来はない、
という事を深く感じました。


主演の染谷将太がヒット祈願イベントで言っていましたが、
今この時期に映画館のスクリーンで見ることに意味がある映画ですね。


ラストシーンの台詞は、自分から自分への応援。
とても辛くて、ともすれば諦めてしまいそうになる自分へ向けた、
必死に、がむしゃらに前を向く言葉。


諦めることは簡単。けれど、諦めなければいつか幸せが待っている。
幸せな未来を夢想できるからこそ、今を頑張ることが出来る。


住田君と茶沢さんの未来が幸せであることを願っています。